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特定技能外国人に労災は適用される?企業が知っておきたい基本と対応方法

特定技能外国人に労災は適用される?企業が知っておきたい基本と対応方法

特定技能外国人を受け入れている企業の人事・労務担当者にとって、労災への対応は避けて通れない実務課題です。結論から言えば、特定技能外国人にも労災保険は適用されます。
国籍や在留資格、労働時間の長短にかかわらず、日本で働くすべての労働者は労災保険の対象です。
しかし、実際に現場で事故が発生した際に「どう動けばよいのか」が明確になっていない企業は少なくありません。労災申請の手続き、医療機関での対応、通訳や書類作成のサポート、再発防止策の検討など、対応すべき事項は多岐にわたります。

本記事では、特定技能外国人に労災が適用される基本原則を押さえた上で、企業が実務として押さえるべき注意点と事故発生時の対応フローを整理します。

特定技能外国人にも労災保険は適用される

労災保険は日本で働くすべての労働者に対して適用される公的保険制度です。特定技能外国人も例外ではありません。雇用する企業側の手続きや知識不足によって、いざというときに対応が遅れると、外国人労働者にとっても企業にとっても大きな負担となります。まずは基本的な適用ルールを確認しておきましょう。

国籍・在留資格を問わず労災保険は適用される

労災保険は「労働者を一人でも雇用する事業主」に対して強制適用される保険です。労働者の国籍や在留資格、雇用形態(正社員・パート・アルバイト)を問わず、業務中や通勤中に発生した傷病は労災保険の対象となります。特定技能1号・2号の在留資格で働く外国人も、日本人労働者と同じ条件で労災保険の保護を受けられます。

労災保険料は全額事業主負担で、従業員から天引きする必要はありません。加入手続きも、事業所単位で労働保険の適用を受けていれば、個別の加入手続きは不要です。特定技能外国人を新規に雇用したからといって、追加の労災加入手続きが発生することはありません。

補償の対象となる事故の範囲

労災保険の対象は、大きく分けて「業務災害」と「通勤災害」の2つです。業務災害は、仕事中の負傷や疾病、障害、死亡などを指します。通勤災害は、自宅と勤務先の間を合理的な経路・方法で移動している途中に起きた災害です。工場での機械事故や倉庫内での転倒などは典型例であり、業務との関連性が認められれば補償の対象になります。

また、腰痛や精神障害についても、すべてが当然に労災となるわけではありませんが、業務との因果関係が認められれば対象となる可能性があります。こうしたケースは、事故や出来事の内容、働き方、発症までの経緯などをもとに、労働基準監督署が個別に判断します。そのため、発生時の状況や勤務実態を正確に記録しておくことが重要です。

一方で、私的な外出中の事故や、業務と関係のない私傷病は労災保険の対象外です。業務との関係がはっきりしない場合には、後日の確認や調査に備えて、日時、場所、作業内容、周囲の状況などを整理して残しておくとよいでしょう。

公的労災だけでは不足するケースへの備え

公的な労災保険では、療養補償や休業補償などの給付が受けられます。休業に関する給付は、休業4日目以降、給付基礎日額の60%の休業補償給付に加え、20%の休業特別支給金が支給されるため、合計で80%相当となります。ただし、実際の生活再建や家族への備えまで十分にカバーできるとは限りません。

特定技能外国人の中には、日本で頼れる親族が少ない方や、母国への送金を続けている方もいます。そのため、公的保険を補う手段として、JITCOが案内している「特定技能外国人総合保険」のような任意保険を検討する方法もあります。こうした保険は、病気や日常生活上の傷害、損害賠償などに備える内容が含まれており、補完策の一つとして位置づけられます。なお、保険料や補償内容はプランによって異なるため、最新の条件を確認した上で判断することが大切です。

事故発生時に企業が取るべき対応フロー

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労災事故は突発的に発生します。事前に対応フローを整備しておかないと、現場の混乱を招き、被災者への対応が遅れるリスクがあります。ここでは、企業が事故発生時に取るべき標準的な対応の流れを段階的に整理します。

事故直後の対応:応急処置と医療機関への搬送

事故が発生したら、まず被災者の安全確保と応急処置が最優先です。重傷の場合は救急車を呼び、速やかに医療機関へ搬送します。軽傷の場合でも、自己判断で済ませず、医療機関での診察を受けるよう指示してください。後になって症状が悪化するケースもあります。

医療機関を受診する際は、労災指定医療機関を利用することで、被災者は窓口での治療費負担なしに診療を受けられます。労災指定医療機関の一覧は厚生労働省のサイトで確認できます。労災指定外の病院を利用した場合は、一度立て替え払いをした上で後日請求することになり、手続きが煩雑になります。

労災申請手続きの支援

労災保険給付を受けるには、所定の請求書を用いて手続きを進めます。療養の給付については、業務災害なら様式第5号、通勤災害なら様式第16号の3を使用します。指定医療機関で受診する場合はその医療機関へ提出し、指定外医療機関の場合は、療養の費用請求書を労働基準監督署へ提出する流れになります。

申請書には事業主証明欄がありますが、会社が証明をしない場合でも、やむを得ない事情があれば労災請求自体は可能です。そのため、企業としては「会社の証明がないと申請できない」と誤解させないことが大切です。一方で、実務上は事故状況や勤務実態を確認できる立場にあるため、企業が事実確認や書類準備に協力することが、手続きを円滑に進めるうえで重要です。

特定技能外国人の場合、日本語での書類内容の理解や手続き対応が難しいこともあるため、人事担当者や現場責任者、必要に応じて登録支援機関などが連携し、記入内容の確認や提出手続きの支援を行うと安心です。

通訳・翻訳サポートの確保

特定技能外国人の労災対応では、事故状況の確認、医師への説明、書類内容の理解など、正確なコミュニケーションが求められる場面が多くあります。そのため、やさしい日本語で説明するだけでなく、必要に応じて通訳や翻訳の支援を確保しておくことが大切です。

相談先としては、厚生労働省系の外国人労働者相談コーナーや、外国人労働者向け相談ダイヤルなど、多言語で相談できる窓口があります。加えて、登録支援機関、自治体、民間の通訳サービスなどが利用できる場合もあるため、企業として事前に連絡先を整理しておくと、緊急時の対応がスムーズになります。

労災事故を未然に防ぐための実務上の注意点

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事故発生時の対応フローを整えることと同じくらい重要なのが、事故を未然に防ぐための予防策です。特定技能外国人の受け入れにあたっては、言語・文化の違いから生じるリスクにも配慮が必要です。ここでは、企業が日常的に取り組むべき予防策を整理します。

入社時の安全教育の徹底

労災事故の多くは、作業手順の理解不足や安全装備の不適切な使用から発生します。特定技能外国人の入社時には、業務内容の説明だけでなく、安全教育を丁寧に実施してください。やさしい日本語や母国語で書かれた安全マニュアル、視覚的にわかりやすい動画教材、実演形式の研修などを活用することで、理解度が高まります。

危険作業に関するルール、ヒヤリハットの報告制度、保護具の着用義務、緊急時の連絡体制といった基本事項は、全員が同じ水準で理解しておく必要があります。一度の研修で終わらせず、定期的な復習の機会を設けることも効果的です。

定期的な職場巡視と危険源の除去

現場の危険源を放置すると、事故のリスクは日々高まります。経営層や管理者が定期的に職場を巡視し、危険箇所の発見と除去を継続することが重要です。特定技能外国人から寄せられた「危ないと感じた」という声にも、耳を傾ける姿勢が求められます。

床の滑りやすさ、機械の故障、通路の障害物、照明の不足、換気の不十分さなど、日常的にチェックすべき項目は多岐にわたります。チェックリストを作成して記録に残すことで、改善の継続性と効果検証ができます。

健康管理とメンタルヘルスへの配慮

精神障害も、業務による強い心理的負荷や長時間労働などとの因果関係が認められた場合には、労災の対象となることがあります。特定技能外国人の場合は、慣れない日本での生活や言葉の違い、人間関係への不安などが重なり、知らないうちに大きな負担を抱えてしまうこともあります。だからこそ、企業には日頃から小さな変化に気づける環境づくりが欠かせません。定期的に面談の機会を設け、仕事のことだけでなく、生活面や体調面についても相談しやすい雰囲気をつくることが大切です。

また、長時間労働の抑制、十分な休憩時間の確保、休日の取得促進など、基本的な労務管理を徹底することが、結果として事故の予防にもつながります。労働基準法の遵守は、安心して働ける職場をつくるための基本です。

特定技能外国人の労災対応を整備するために

特定技能外国人も労災保険の対象となるため、企業は日本人労働者と同様に労災対応の体制を整える必要があります。事故が発生した際は、応急処置、労災指定医療機関への搬送、申請手続きのサポート、通訳の確保という4つのステップを速やかに実行することが求められます。

また、公的労災ではカバーしきれない部分を補う任意保険の活用も、安心して働ける環境づくりに役立ちます。事故を未然に防ぐためには、入社時の安全教育、定期的な職場巡視、メンタルヘルスへの配慮といった予防策を日常的に実践することが重要です。特定技能外国人の受け入れは、単に労働力を確保するだけでなく、彼らが安全に働ける環境を提供することまで含めた責任を伴います。適切な労災対応の整備は、外国人材との信頼関係を築く第一歩です。

特定技能外国人の受け入れや労災対応について不明点がある方は、登録支援機関や社会保険労務士に相談しながら、自社に合った体制を構築していきましょう。